文献調査(4)2011/05/26 11:52

『田口護のスペシャルティコーヒー大全』

NHK出版/2011年5月25日第1刷発行
B5変形/上製本/160ページ(うちフルカラー144ページ)
3,780円(税込)

スペシャルティコーヒー大全


まずは、価格。専門書レベルのプライシングで相当高く感じる。
ざっと見ると、これは田口氏のポリシーであろうが、ほぼ全てがカラー印刷である。

見易く豪華ではあるが、せめて半分の72ページを4C(4色使い)として、
残りを1C(1色使い)とすれば、制作費も抑えられ、価格ももっと抑えられたであろう。
無理に4Cにする必要はないのである。

無論、欲しい人は価格がいくらであろうと絶対に買う、図書館には絶対に入る、
等の市場判断があるので、版元はこうした強気の価格を得てしてつけてしまいがちだ。

この本の体裁は、私も熟読している前著『田口護の珈琲大全』
全く同じ160ページ(うちフルカラー144ページ)である。


珈琲大全2S


しかしながら前著は2,940円(税込)であったので、読者にとっては
なぜ同じ価格にならなかったのか疑問が残る。

恐らくNHK出版の強気な戦略がそこにはあり、推察すると、
私が持っている前著『珈琲大全』の奥付を見ると、
2009年2月に発行された第6刷のもので、初版は2003年11月なので、
ほぼ毎年増刷していることとなり、この手の本としては良く売れているといって
よいであろう。

そしてスペシャルティコーヒーの時代が到来し、日本のコーヒー業界を
商業的に、文化的に牽引してきた田口護氏が満を持して上梓するのだから、
また、堀口俊英氏の『珈琲の教科書』が何万部売れているのだから、
これは初版2万は固い、などというNHK編集担当者の試算があったのであろう。

私が編集者なら、カラーページを減らしてコストを減らし、価格を抑える。
前著と同じ2,940円とし、そのかわり、売上目標は3,780円で4万冊ではなく、
2,940円で5万冊とする。その方が読者には優しく、企業の利益確保も同じなのである。

さて、内容だが、目次を見てみると、

第1章 知識編
 スペシャリティコーヒーの全て 
 1.スペシャルティコーヒーとは
 2.スペシャルティコーヒーが市場に出るまで
 3.スペシャルティコーヒーのおいしさとは

第2章 技術編
 スペシャルティコーヒーの焙煎
 1.システム珈琲学
 2.スペシャルティコーヒーの4分類
 3.4タイプ別焙煎
 4.スペシャルティコーヒーの焙煎度
 5.焙煎のストライクゾーン
 6.スペシャルティコーヒーの特性を生かす焙煎
 7.焙煎のケーススタディ
 8.カップテスト
 9.スペシャルティコーヒーの抽出

第3章 実践編
 スペシャルティコーヒーの販売
 1.スペシャルティコーヒーの仕入れ
 2.販売方法と社員教育

[対談]
 スペシャルティコーヒーの未来を語る
 SCAJの取り組み

このうち第2章の技術編に97ページが割かれ、全体の約60%を占めている。
焙煎を重要視しているのは前著と同様だが、この本では、カッピングについても
かなり詳しく書かれている。

なかでもSCAAが使用する「フレーバーホイール」について詳細な解説があり、
例えばBakersという香味表現があるのだが、
これについてきちんと「アメリカの有名な製菓用ダークチョコレートのブランド」
といった解説があり、チョコレートでもダークの味覚ということが理解できるのである。

フレーバーホイール 1

フレーバーホイール2

フレーバーホイール


フレーバーホイールについてきちんとした解説がされたのはこれが初めてであろう。

自家焙煎店ならずとも、スペシャルティコーヒーを愛する全ての人にとって、必読の書といえよう。